2013年11月12日火曜日

事業創造ができる人を育てるために必要なこと

2週間ほど前に「人が育つ環境をどう作るか」というテーマのパネルディスカッションに登壇した。
最近よく考えているテーマであり、一定の自分なりの考えもあるのだが、一方でマネジメントする立場として実践するのはいかにも難しいテーマでもある。

少し頭を整理する上でも、当日の発言や翌日に読んだ書籍の内容も踏まえて、少しメモしてみる。



(本文:読了5分)

・事業創造ができる人が育つ条件
・「経験学習」を成立させるポイント
・中途採用の人材が成功するためには
・まとめ




事業創造ができる人が育つ条件


人が育つといってもどういう人を育てるかには色いろあるのだが、イベントのお題は「事業創造ができる人を育てる」だったので、その視点で発言した内容を思い起こしてみる。

「事業創造」というからには、答えがわからないか、答えがわかっていても実現が容易でないことをやれる人が必要だという前提で考えていた。

すなわち、リーダーを育てるという枠組みであり、一人ひとりがリーダーシップを持つ組織を作るという方向性。

業務に熟練している先輩が後輩に教えるという、既に業務の進め方が確立された会社の話というよりも、ゴールを定義するところから解決方法までみんなで作るという職場での人の育成。

人が育つためには何が必要かという視点の質問に、おおよそ下記のような答えをした。

  1. ストレッチする意思と環境があること
  2. たくさんの意思決定(たくさんの成功と失敗)を経験できること
  3. 個々の強みを伸ばす文化があること

身も蓋もない話だが、成長するためには本人がすごく頑張らないと始まらない。

ただ、「がんばれ、速くやれ、必死でやれ」といったところで疲弊するだけ。
やらされる仕事では、クリエイティビティも発揮できない。

そこで必要なのは、明確な経営のビジョンなんだろうということ。

達成したいビジョンがなければ、今の能力を超えた仕事にチャレンジしようなんていう意欲はなかなか湧いてこないもの。

これがないと、ストレッチできない。

また2つ目にあげてあるたくさんの意思決定(つまりはたくさんのチャレンジ)をさせることについても、無秩序に自由にやらせていては成長にはつながらない。

ここでも、ビジョンに即した目的を合意し、その範囲内においては後は自由、責任をもってチャレンジしよう、ということにしないと、成功だったのか失敗だったのか、振り返るための軸がなくなる。

3つ目の強みを伸ばす文化については、特に新しい事業を創造するという側面から重要になってくる。

エッジが聞いた人が自分の強みを生かしでもしない限り、新しいものは作れない。

ただ多様性が大事と言うのは簡単だけど、多様な人材をマネジメントするコストはとても高い。
1+1が2以上の相乗効果を出すどころか、簡単に2にもなってくれない。

だからこそ、相互理解をするための環境・文化と、明確なビジョン(どちらかというと振る舞いを規定するバリュー/行動規範的なもの)が必要になってくる。

総じて言うと、明確で魅力的なビジョンを提示でき、挑戦と適応性の2つのメンタリティーを兼ね備えたリーダーがいて、それを会社全体の文化として育てようとしている環境というのが、事業を創造できる人が育つために必要な条件だろうということになる。

その上で、個々がどれだけストレッチし、そのプロセスと結果を振り返り、腹落ちしたところでもう一回チャレンジする、というプロセスをまわせるかどうか。

イベントでの登壇者が押しなべて言っていたのは、何かを本気でやってみるプロセスを経ないと成長しないということ。

言い換えると、本気になれない仕事を「成長のための修行」みたいな受け身の気持ちでやっていては大した成長も得られないということなのかもしれない。

(当日のイベントでは、いかにしてビジョンを育て、言語化していくかという話が盛り上がったのだが、その話を深堀りすると長くなるので、また別の機会に。)



「経験学習」を成立させるポイント


さて、イベントでは「経験」が人を育てるという話を誰もがしていたのだが、経験から学習するという話になると最初に思い浮かぶのが、デービット・コルブの経験学習モデル。

・・・とはいっても、僕も何年か前からプレゼンでコルブのモデルに基づいた話をすることはあるものの、ちゃんと勉強したことがあるわけではない(汗)

そこで、イベントでも登壇者としてご一緒させていただいた東京大学の中原淳先生の著書「経営学習論: 人材育成を科学する」から、経験学習の実証研究の内容を少し紹介させていただこうと思う。



デービットコルブの経験学習論とは、

  1. 具体的経験
  2. 内省的観察
  3. 抽象的概念化
  4. 能動的実験

の4つのプロセスをぐるぐる回しながら成長していくという理論。

もう少し詳細に言うと、

  1. 現状の能力を超えてこなさなければならない挑戦的な業務経験をする(ストレッチ)
  2. 自らの経験を俯瞰的な観点から振り返り、意味づける(リフレクション)
  3. 経験を一般化、概念化し、他の状況でも応用可能な知識にする
  4. 応用可能となった知識を実践する(→1に戻る)

といった感じ。

このサイクル自体は実体験としてもかなり腹落ちするものだったのだが、中原先生の本を読んで新たな発見もあった。

何かというと、2番めのプロセスのリフレクションについてなのだが、

「実践の意味を振り返り、因果関係を分析し、将来の行動に対する結論を抽出する」

という自己での振り返りだけでなく、

「自己だけで完結しないで他者との対話、あるいは組織による内省が重要」

という方向の分析が現在のトレンドという話だ。

そこで、経験学習を成立させるポイントとなるのが

  • 上司が計画的に業務経験(現有能力を超える適切な負荷のある仕事)を与えること
  • 上司が部下の業務遂行プロセスを管理し、場合によってはフィードバックを返して内省を促すこと

なるほど、今までストレッチするための環境を作ることについてはなんとなく意識してきたけど、内省を促す機会をちゃんと持たないと効果が出ないんだな、という発見だった。

そして、中原先生の本が面白いのはここからで、この手の話をちゃんと実証研究しているところ。

具体的な数値については本書を読んでもらえればと思うが、例えば部下の能力向上にどんな要因が寄与しているか、因果関係を重回帰分析している。

結果としては、上記にあった、「上司が部下をストレッチさせること」「上司が部下のモニタリングリフレクションをすること」の2つは、部下の能力向上に正の影響を与えるという結果が出ている。

また、「上司が部下の仕事説明(全体像と任せる仕事の関係)をすること」については、直接的には能力を向上させないが、上記の2つと組み合わせると、その2つの効果を上げるという結果も出ている。

この点は、マネジメントする立場として意識してやっていきたいと思ったところ。(自分としては、あまり得意ではないこともあり・・・)

他に面白かったのは、社会人の年次ごとの違いや、研究職・営業職・スタッフ職の違いによって、4つの経験学習のプロセスのうちどこが大事か、といった議論だろうか。

詳細についてはぜひ本書を読んで楽しんでいただきたい。



中途採用の人材が成功するためには


さて、人を育てるとした時に新卒を時間をかけて育てるのとは違い、中途採用をした場合にはまた別の難しい問題がある。

ベンチャーの場合は中途採用が大半だろうし、他の従業員とタイプが違うエッジの効いた人を採用することが多い。
そうなるとマネジメントが簡単ではなくなるわけで、この中途採用の人材が成功するためのポイントについては知っておいて損はない。

中途採用者が抱える問題というのは、ずばり、前章で書いたような、リフレクション支援や仕事説明といったまわりからの支援が得にくい点にある。

つまり、まわりが「即戦力」であることを期待して「お手並み拝見」というスタンスで臨んでしまいがちだし、本人も約束した結果を出さなければと支援を要請しにくいメンタリティーになっているからだ。



中途採用者が抱える具体的な問題は、下記の4つに大別される。

  1. 人脈学習課題・・・誰が実質的な意思決定に影響を及ぼしているか、誰がどんな情報を持っているかなどがわからない
  2. 学習棄却課題・・・前職での成功体験に拘ってしまい、違うやり方をした方がよいケースでも前職でのやり方を捨てられない
  3. 評価基準/役割学習課題・・・自分がどんな役割を期待されていて、何をすれば新しい組織で評価されるのかがわからない
  4. スキル課題・・・新しい職場で必要とされているスキルが不足している

どれも転職経験者、あるいは中途採用受け入れの経験者ならしっくり来るものばかりだろう。

なお、転職の苦しみは、前職と同じ仕事をしているかどうかはあまり関係なく、むしろ前職で類似の仕事であるほど、以前の経験・知識・やり方を学習棄却することに困難を感じるということらしい。

さて、これらを自己の力で解決しようとするならば、少しでも職場でのやり取りを観察し、ランチなどの非公式の場も含めて少しでも長く同僚と時間を過ごすことに努め、「前職ではこうやっていた」をしばらくは禁句にし、愚直に新しい職場でのやり方を学ぶ、ということになるのだろう。

実際これは有効だと思うし、前職での経験はいつか活きるから、しばらくは我慢して、まずは謙虚に新しいやり方を学ぶのがよいと個人的には思っている。

とは言いつつも、少しでもその中途採用者が成功した方が会社にとってもよいわけで、効果的なアクションがあるなら上司は当然にそれを取るべきということになる。

経営学習論では、この点について、下記の4つを独立変数として、上記の4つの課題解決への影響を分析していた。

  1. 上司による仕事説明
  2. 上司によるストレッチ
  3. 上司によるモニタリングリフレクション
  4. 職場学習風土(知識・スキルの獲得・共有・仕組み化・陳腐化したものの廃棄)

その結果、中途採用者が活躍するための第1のカギは「上司によるモニタリングリフレクション」で、これは「評価基準/役割獲得課題」「学習棄却課題」「スキル課題」の3つに対して正の影響があることがわかった。

そして第2のカギが職場学習風土で、これは「人脈学習課題」「スキル課題」に正の影響があることがわかった。

つまりは、中途採用者が活躍するための支援とは、上司による進捗報告・内省の促し、及び職場における知識流通・コミュニケーションが発生する場作り、の2つが重要ということである。

中途採用者、上司の双方が積極的にこのような活動をすることが、事業創造に繋がっていくのだろう。



まとめ


さて、事業創造ができる人を育てるために必要なこと、というお題で自分の経験と中原先生の本から気づいた点を中心に書いてみた。

事業創造が目的かどうかにかかわらず、仕事での成長には一定の法則があると思っているので、(特に事業創造に着目しているわけではないが)中原先生の本を大いに参考にしてみた。

違う点をあえていうなら、新しいことにチャレンジする分、「ストレッチ」が果たす役割と、「多様性のマネジメント」的な要素が一般的な仕事よりも大きいくらいなのではないかと思っている。

(そのため、多様な人材が集まるベンチャーをイメージしながら、中途採用者が成功するためにはという内容も紹介してみた)

まとめると、プレイヤーとしての本人の心構えと、上司の心構えは、以下の点が大事であるということになるだろう。

本人の心構えとしては、

  1. ストレッチする機会に飛び込むこと
  2. 積極的に職場コミュニケーションに参加すること
  3. 謙虚に新しい職場でのやり方を勉強すること

上司の心構えとしては、

  1. 明確な経営ビジョンを示すこと
  2. ストレッチさせることとセットで進捗報告・内省の促しを行うこと
  3. 職場学習風土を醸成すること

個人的には、自分自身がプロフェッショナルファームで育ったため、ストレッチの機会と内省支援のバランスが著しく前者によった環境で育ったように感じるが(笑)、そんなマッチョなやり方を全員に求めていくわけにはいかないので、もっとモニタリングリフレクションをできるマネジャーになっていこうと心を決めた次第。

また、結論はシンプルなのだが、そこにアカデミックな実証研究の結果を照らし合わせることで、腹落ち感が大きくなったのはよい体験だった。

ということで、イベントへの参加をイベントだけで終わらしてはもったいないので、今回、イベントの内容を振り返って文章にまとめてみた。

皆さんにも何らかの参考になったら幸い。


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