ライフネットには中田さんというすごい人がいるという話は以前から耳にすることはあった。
ライフネットと言えば出口さんと岩瀬さんだが、その2人の裏の上司との形容も聞くくらい、ライフネットの躍進の立役者の一人とのこと。
なんとその中田さんがこの4月に本を出されていたのだが、なぜかそれを知ることなく、6月にたまたま知人をライフネットの友人に紹介した際に初めてこの本の存在を知った。
そして、これがものすごくよい出会いだった。
「10万人に愛されるブランドを作る!」中田華寿子(東洋経済新報社)
愛されるブランドの人格
ベンチャーは資金も人的リソースも限られるため、顧客獲得のためならなんでもかんでもやるというわけにはいかない。
もちろん広告などによる一人あたり顧客獲得コストが獲得顧客のライフタイムバリューを上回るのなら、ただひたすら広告を打つという戦いもできるのだろう。ただ、そうでない時は、自社の使えるアセットを見直し、お金をかけない方法で戦う必要がある。
そこで、「認知度なし、予算なし、大手競合あり」という三重苦の中で、スターバックスやライフネット生命などのマーケティング担当として、人々から愛されるブランドを作った中田さんの戦略が大いに役に立つ。
マーケティングの指標として短期的に契約をとるための指標を持たず、認知度と共感度を指標にしているという中田さんから、本書で最初に紹介されるのが、以下の「愛されるブランドの人格の4つの共通点」。
- 理念がある
- 顔が見える
- 正直である
- Noと言える
理念の重要性についてはあらゆるところで語られているが、ネット企業だからこそ「顔が見える」ことがブランディングの上で大切であるというのは、なるほどと気付かされた。
確かにまわりのベンチャーを見渡してみても、例えば似たような事業をやっていても、代表の顔がリアルで見える会社と見えない会社では、ユーザーとしての僕の感じ方がずいぶんと違うことがある。
そしてこの4つの中で一番参考になったのが、「Noと言える」こと。
それは、Noがあって初めてブランドができあがるということ。
顧客へのメッセージは、「何をするか」ではなく「何をしないか」で決まってくるということだ。
少しでも顧客を増やしたいベンチャーにとっては、顧客の要望にNoと言うのは勇気がいる。
でも、Noを伝えながら「なぜNoなのか」の理由もあわせて語ることは、実は会社としてのメッセージを最も強力に伝えるチャンスなのだ。
読んだタイミングが良かったからか、これのおかげで自分の中にあった小さな迷いがひとつ吹っ切れた。
ベンチャーだけが持つ武器
本書には、上記のブランドの人格の話から始まり、実践的な「共感を呼ぶマーケティング」手法と、その背景にある考え方が記されている。
ハイライトの一つは、インターナル・マーケティングについての章だろう。
理念を伝えることも、顔を見せることも、社長だけがやっていればよいわけではない。
社員すべてに同じ思いが浸透しているからこそ、ブランドは醸成され、にじみ出るようにユーザーに伝わっていくのだろう。このあたりの取り組みについてはぜひ本書で確認して欲しい。
その他にユニークなところで言えば、かつて話題になった「ハトが選んだ生命保険に入る」や、最近話題になった「出口社長におもしろいことを言わせてお祝いしよう!」も、その背景にある考え方(何をやってよくて、何をやってはいけないか)はとても参考になる。
さて、本書では「認知度なし、予算なし、大手競合あり」という中での色々なマーケティング/ブランディング施策について語られているのだが、根底にあるのは、ベンチャーが持っている強みを活かして戦おうよ、ということだと思う。
ベンチャーだけが持つ武器。
それは、起業家、あるいは創業メンバーの、想い。
彼らが持つ、ストーリー。
創業者は、たとえリスクが高くても、どうしても実現したいことがあるから、やる。
その裏にある想いやストーリーを語ってファンになってもらうというのは、ベンチャーが大手企業以上に強くなりうるアセットの一つ。
逆に言えば、資金も人材も少ないベンチャーには、ストーリーしか存在しない。
この点においては、若い起業家と年配の起業家の対比においても、年配の起業家のほうがより強いストーリーを持っている可能性が高いという意味で、武器になりやすいかもしれない。
それを徹底的につきつめると、ライフネットの毎年200回もやる「全国どこへでも10人集まれば行脚に行きます」になるのだろうし、いわゆる「大きな名刺」と呼ばれる志カードの作成になるのだろう。
理念があってもユーザーに知られていなければ意味がない。何度も何度も皆の前に出て、語り、オーディエンスに語り部になってもらう。
これを、ライフネットほど徹底的にやった会社はなかなかないだろう。
思いついたことをとにかく試すというスタンスにも見えるが、そうやってやっている様々な施策に、実は一本の軸が通っているように見える。
そこで、良いと思ったものは取り入れてみた
さて、ビジネス書たるもの「読んで勉強になった」だけでは意味がなくて、翌日からほんの一つでも行動変容が起きたかどうかが読み手にとっては大事だと思っている。
良いものはまず愚直に試す、をモットーとしている僕としては、何かを実践せざるをえない。
ということで、作ってみた。
大きな名刺。
思い立った数日後のイベントで配って反応をみてみたかったが、デザインをゼロからする時間はさすがにない。チープなものは出せないし。
ということで、全体のデザインはライフネット生命と一緒にし、文章を急いで考えて、印刷。
知っている人が見ればライフネットのデザインと同じなのがわかるので、渡すたびに「いやー、実はこれはライフネット生命がやっているものをそのまま参考にしたもので・・・」と、ついついライフネットの宣伝もしてしまう自分。
おかげ様で、僕らの「大きな名刺」は好評で、受け取った方から嬉しいお言葉をいただくこともチラホラ。(実際に配っていただけたのかまではまだ追えてないけれど)
facebookに写真をあげたら某企業から「ビジョンに感心した」とご連絡を頂き、いきなり良いご縁もいただいた。
ということで、実験(?)はいまのところ大成功。
ライフネット生命さま,ありがとうございます。
「参考にした」を超えたレベルで似せているので、なるべく早めにデザインは変えようかと思っているけれど、大きな名刺で想いを伝えるというのはとてもよい方法だと感じたので、これは続けていきたい。
(さすがによいデザインなので、ライフネットからお墨付きをいただければもうしばらくは同じデザインでやりたかったりするのだが・・・(笑))
それから、ライフネットを参考にするという意味では、出口さんや岩瀬さんがされている「行脚」もやろうと思っている。
さすがに今の忙しい時期に全国どこでも行けるとは言えないけれど、都心から近ければ5人も集まっていただけるならできる限り出向いていきます。(遠くの方は、要相談・・・)
これまでも依頼されれば時々講演はやってきていて、テーマ的にはキャリア系のものが多いけれど、受けられそうなものがあればなんでもやります。よい機会があればぜひご紹介ください。
(テーマ的には、これまではキャリア構築、リーダーシップ、NPOマネジメント、MBA関連が多く、これに今後は起業が加わるといったところか)
ということで、今回は本の紹介に留まらず、本を読んで実践したことまで思い切って開示してみた。
ベンチャー企業のみなさま、ご参考にしていただければ幸い。
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