スタートアップの失敗には、製品・サービスの失敗と、アントレプレナーやファウンダーチームの失敗という2つの失敗が存在している。仮に最初に手がけた事業が失敗しても、その後に再度チャンスが巡ってくるかは、アントレプレナー自身が失敗の中から何を学び、その後にいかに活かしたのかに大きく依存する。
別に失敗した時のことを今から考えているというのではないのだが、失敗と成功を分ける要因が何かを知っておきたいという思いから、もうすぐサービスインを控えている僕らにとっても色々と参考になるだろうと思い参加してきたわけだ。
で、今回は、企業の中で大きな失敗をされた方と、創業ベンチャーで失敗された方のお二人が、いかに失敗から復活したのかという話を聞くことができた。
プレゼンターの1人目は、株式会社VOYAGE GROUP 取締役CCO 青柳智士さん。
青柳さんは、インテリアデザイナーからサイバーエージェントに転職したという経歴の持ち主。
サイバーエージェントに入社後、当時アメリカで流行していたドロップシッピング事業を子会社で始めたそうだ。最近のグルーポン系サービスが流行ったような感じで、当時は日本でも参入企業が多く、青柳さん曰く「バブっていた」と。
事業領域もよいし、よいメンバーも集まり、チームとしてはかなり勢いに乗っていた。
が、蓋を開ければスタートからクローズまでわずか1.5年。結果として4億円という多額の損失を出してしまった。
失敗の理由を上げ始めたらキリがない。ノウハウがない中で、どうやって新しいビジネスを作っていくのがわかっていなかったし、社長・メンバー・取引先などのステークホルダーとのコミュニケーションのやり方もわかっていなかった。
ビジネスがコケた時、社内外問わず色々言われたそうだ。クローズするとなった時、何を言い返していいかわからないくらい周囲から追い詰められ、精神的にもやられ、血を吐くにまで至ってしまった。
自殺も頭によぎるくらいだったが、その時、サイバーエージェントのグループ会社であるVoyage Groupの社長が「やっちゃったのは仕方ないから、次からどうするよ」と言って拾ってくれたおかげで、気持ち的にも救われてなんとか生きている、とのこと。
その後、「事業の失敗は、事業で取り返す」と、猛烈に頑張り、赤字が出ていた価格比較サイトを3ヶ月で黒字に持っていくことができた。黒字化の結果、約1年でドロップシッピングの赤字分を「返済」できる利益を出せたそうだ。
さて、この話のポイントとしては、なぜセカンドチャンスを得られたか、そしてなぜセカンドチャンスを活かせたか、の2つだと思う。
ところがそこで面白かったのは、青柳さんに「明確な答えがなかった」こと。
もちろん無いわけではないが、具体的に何を学んだと言われてもぱっと言葉にできる感じではなかった。ただ、「失敗は成功のもと」とはよく言われるものの、実際に目の当たりにしないと失敗がどういうものかはピンと来ないものだったこと。そして、一度の失敗を経た次の事業では、すべての点と点が繋がって面となり、球となっていく感覚を持てたということ。このようなお話だった。
本人に言わせれば、失敗を真正面から受け止めて愚直に頑張ったとしか言えないということだったが、よくよく聞いてみると、「清算に至るまでに、考えうる限りの事業転換の案をやり尽くした」という経験がよかったのではないかなと、勝手ながら想像した。
つまり、事業の失敗は表向きは1つだけだが、会社を清算するまで、なんとか復活させようと必死になって仮説検証を繰り返すプロセスを経験し、実際にはものすごい数の小さな失敗を経験できたのが、血となり肉となったのではないかと。
だからこそ、二回目は「点と点が自然とつながっていく感覚」が持てたのではないだろうか。
さて、プレゼンターの二人目は、ダイヤモンドメディア株式会社代表取締役の武井浩三さん。
「人間性経営」と称して、給料は自分で決める、上司・部下の関係や肩書きはない、働く時間や場所も自由、代表・役員は選挙で決める、財務情報は社員に全部オープン、というユニークな経営をしているWeb制作会社だそうだ。
武井さんは、2006年にファッション系ITメディア企業を創業したが、翌2007年には倒産させてしまった。
社員は4名、全員22歳で技術者ゼロ。未経験、お金なし、人脈なし、就業経験なし。あったのはエゴとアイデアだけ。なぜか自信だけは満々で1,000万円の借金をしてスタートしたが、当然にまったくダメだったそうだ。
そこで次の事業では、できるところからコツコツやった、と。そしてここからの流れが振り返ってみればLean Startupのプロセスそのまんまだった。
まずWeb制作を何社か受注し、その中で発見した共通点に基づいて、まるでサービスパッケージが既にあるかのごとく、パワポ資料と説明サイトだけを作った。不動産・求人・ECサイトの3つのビジネスを前面に出し、反応が良かった不動産だけを残して他の2つはすぐやめた。
その後も、表面的にはパッケージ化したビジネスに見せかけて、Web制作を受注してからそれぞれにあったものを作ることを繰り返す。独特の業界なので、何が汎用的なニーズなのか最初はわからなかったが、クライアントが50社を超えてからやっと汎用的なニーズをベースにしたビジネスに仕立て上げ、そこからパンフレットを作り、新たにサービスをリリースしたそうだ。
今では会社も順調のようだが、そこまで復活したコツを武井さんに言わせれば、これまた「継続することがすべて」という泥臭い回答。
でもこれがどこから来た言葉かというと、一つ目のビジネスがまったく立ち上がらなかったけれど、途中でピボットせず必死にユーザーを集め続けたから、最後はその事業を売却できた、という経験から。
その売却によって借金も返すことが出来、なんとか次のプランを始められるに至った。その過程でプログラミングのスキルも身につけた。途中で諦めたらそこで終わりだったわけだ。
現在の事業でも、最初はとにかくお客さんに怒られることばかりだったが、なんとか誠意をもって接しながら必死にやってきたら、そのうちうまく行くようになった、と。
これを表現すると「継続することがすべて」となるらしい。
これも、青柳さんと同じく、1つの事業を失敗しただけのように見えるが、その中で仮説検証という小さな失敗を山ほど作ったからこそ、成功に近づいたのだろうと思う。
今回2人の話を聞いたあとのラップアップのまとめがよかったのだが、結局、イノベーション(というか事業の成功かな?)は、IdeasではなくLearnのプロセスで生まれるものだよね、ということ。
思いついたIdeasを元に、Build→Measure→Learnというフィードバックループを回していくのだが、イノベーションはループの1週目で起きるわけではない。マーケットに受け入れられて初めてそれがイノベーションであると認知されるわけで、そこにたどり着くまでに何度Learnのプロセスを経験できるかが、事業の成否を決める。
2人の話を聞いていると、事業を1つ失敗して、次にはなんかうまくいっちゃった、みたいな話に表面上は聞こえるのだが、その1つ目の失敗経験のなかで、必死になって仮説検証のループを早くまわし続けたからこそ、成功するための知見を身につけられたのだろうと思う。
うにゃうにゃ考え続けるのも大事だけど、同時に手を動かして、とにかく仮説検証のループを回し続ける。このスピード感と、その背後にある集中力が大事なんだろう。
最後に、最近IPO申請して話題になったFacebookの申請書類にあったマーク・ザッカーバーグの手紙からの一文を引用して終わろう。僕もこの言葉を壁に掲げるかな。。。
ハッカーはすぐに全てを良くしようとするよりはむしろ素早くリリースしたり、より小さな反復から学ぶことによって長期的に最高のサービスを作ろうとします。このことをサポートするために、我々は与えられた時間で何千というバージョンのFacebookを試すことのできる構造を作り出しました。我々は社内の壁に「完璧を目指すよりまず終わらせろ - Done is better than perfect -」と書いて仕事に取り組んでいます。