そんな中で、いつも聞いていて辛くなるのが、創業後しばらくした後の「創業株主同士での株式に関する問題」を聞いた時。
これ、めちゃくちゃ多い。
本当に。
創業株主が会社を去ってしまうことがあっても、資本政策については後戻りが難しいため、何かあった時のために「創業株主間契約書」を結んでおくことはすごく重要。
今日は、なぜそれが重要か、そしてどういう内容の契約をしておけばいいのか、についてちょっと書いてみる。
(法律・税務が絡む話なので、実際にはちゃんと弁護士・税理士に相談することをおすすめする)
創業株主間での株式に関する揉め事はものすごーーーく多い!
創業者間での株式に関する揉め事は、あまり表沙汰にならないから目立たないけれど、確率的に本当に多いと思う。
株主が社長1人だったり、あるいは社長が9割くらい持っていて共同創業者はせいぜい5-10%とかなら、別にいい。
でも最近は起業がやりやすい環境になってきたこともあり、友人同士で起業するケースが実感値として増えていて、そういう場合は1人大株主というケースのほうが少ない印象がある。
そんな友人同士の起業による株式に関する問題のパターンは様々だけど、こんなものが多かった。
- 社長の持ち分が少なすぎる、辞めてしまった人が多く持ちすぎている、でも買い取れない・・・といった理由から資金調達に支障が出てしまう
- 持ち分を決めないまま創業準備を続け、いざ法人を設立しようとしたところで創業者間で持ち分で揉めてしまう
- 辞める人から買い取ることになったが、株価で揉めて泥沼の交渉に陥ってしまう
- 買い取ることはできたが、買い取った側が多額の個人的借金を背負ってしまう
株式に関する問題は交渉やお金の力で解決することができたとしても、すごい心理的ストレスがかかるし、ベンチャーにとって一番大事なリソースである「時間」を失ってしまう。
そして何より、せっかく同じ志を持った友人同士だったのに、友人という関係が解消しかねない影響が残るのが残念すぎる。
会社設立直後は会社の価値はゼロに近いわけだから、株式比率がどうであれそれぞれの持ち分はゼロなので、大きな問題にはならない。
でも、VCなどから資金調達をして、一旦株式の価値が評価されてしまうと、それはゼロではなくなってしまう。
たとえ利益が出るのが遥か先で、すぐさま売って価値が出る株式ではないとしても、株価が付けば、持っている株式に対して欲が出るのは当たり前なのだ。
「自分たちは結束が固いから、プロだから、大丈夫」、と思うかもしれない。
でも、創業株主同士で揉めるのは、何も仲違いだけが理由ではない。
ビジネスの方針で揉める以外にも、例えば創業者の1人が結婚・出産して働き方が変わったり、あるいはご家族が病気になって辞めざるを得なくなったりと、理屈上は色々な理由がありえる。
ビジネスを立ち上げる前向きな気分の時に、失敗した時用の契約書を作るのは煩わしいかもしれない。
うまくいかないことを考えるのは、気持ちが乗らないかもしれない。
でも、ビジネスを順調に育てるために、そしてもし何かあってもお互いが友人のままでいられるために、最初の最初に一手間かけて、契約書を結んでおいたほうが絶対によいと断言する。
これは、もう、力強く断言。
取締役みたいな「立場」は、辞めるだけで解消できる。
でも、株式に関することは後戻りは非常に難しい。
そんなときのための、買取の発動条件や、取得価格などをあらかじめ定めた、創業株主間契約書。
ゼロを割ってもゼロだけど、ゼロでなくなった瞬間に、人はごく自然に欲を持ち始めるのだよ。。。
ただ、株式の性質について全ての起業家が必ずしも理解しているわけではない。
時間的・気分的な余裕がないこともあるだろう。
意外かもしれないが、過去の仕事からそういった資本政策が後戻りが効かないものだと十分に認識している人でさえ、創業株主間契約を結んでいることは少ない。
「なんとなく気にはなっていたんだけど・・・」と、後から言う。
きっとプロであっても、やりにくいことなんだろう。
であるからこそ、株価に出資簿価以上の価値が初めてつく最初の増資の段階で、ぜひ投資家側から創業株主間契約を結んでいることを条件に出資するなどの対処をしてあげてほしいと思う。
自分たちでやりにくいことを、他社事例に精通している投資家が指導してあげることが、投資家としての1つの価値なのではなかろうか。
出資した後に創業者間で揉めることになって困るのは投資家も同じはず。
将来のリスクを減らし、創業チームにビジネスに集中してもらうためにも、ぜひ指導してあげて欲しい。
(特にシードアクセラレーター等の初期の機関投資家は、ぜひ!)
さて、まさにこれから会社を設立するので創業株主間契約を結びたいと考えたとしても、どういう条文がいいのかさっぱりわからないという人は多いかもしれない。
そんな時は、ベンチャー向けの各種の契約書ひな形を提供しているAZX総合法律事務所のサイトに訪れるのがまずは第一歩!
AZX総合法律事務所 書式/雛形集
こちらの創業株主間契約書の雛形を使えば最低限の内容はおさえておくことができる。
ただ、こちらは本当にシンプルな内容なので、会社にとって事情は様々あれど、もう少し契約内容を充実させてもよいかなと個人的には思う。
(そのためにもAZXに相談したらいいという話だと思う(笑))
細かい検討ポイントは色々あれど、AZXの雛形に関する大きな論点は以下の点ではなかろうか。
まあ、契約書としてはこんなもんじゃないかなと思う人はこのままでもいいかもしれないけれど、えー、そうなの?と思う人は、上記の3点について以下の様な変更を検討してみてもよいかも。
3. それまで働いた功労として「リバースベスティング(reverse vesting)」を導入する
リバースべスティングとは、途中で辞めた時に、持っている株式を買い取られる率が年々減っていくという仕組み。
例えば、1年勤めたら持っているうちの○%は辞めてもそのまま持っていてよい株式として確定し、2年勤めたらさらに○%が確定し・・・みたいな感じの契約。
見慣れないかもしれないけれど、実際に契約書に書くとしたら、以下のような感じだろうか。
僕が創業した時は、2年くらいで100%確定させるのがよいかなと思っていたけれど、自分でやってみたら会社作ってからの2年はあっという間だったので、3-4年かけて確定させていくとしても良さそうな気はする。(上記では期間を3つしか定めてないけど、実際はもっと細かくわけて、順次確定していく契約としたらいいと思う)
4. その他に検討する条項
上記の3つ以外に追記を検討することがあるとしたら、退任創業株主が持っている株を、在任創業株主がEXITした時に一緒に売却できるとする規定かな。
例えば事業会社がベンチャーを買収するときに、できればそのベンチャーを100%子会社にしたいけれど、株式の10%を辞めた創業株主が持っていて、その10%を買いたくても買い取れない、みたいなことを避けるための条項。
書き方のイメージとしてはこんな感じ。
EXIT時に、辞めた人は残っている人に「自分の持ち分も一緒に売ってよ」とお願いできて、逆に残っている人は辞めた人に対して「お前の持ち分も一緒に売るよ」と請求できる、みたいな条項。
まあ、これは創業者間で揉めた時のための株主間契約とはちょっと違う話(後の話)なのでどちらでもいいとは思うけれど、創業者の1人が辞めた後に出資する投資家は、こういう条項があったほうが安心なのではないかなーと思う。
他に追加を検討する条項は、円満に辞めた時以外にどういう条件で買い取りを発動するかみたいな条項だろうか。「反社会的勢力との付き合いがあったら」、とか、それ以外にも、もしあれば。
(繰り返すけど、大事な話だし、僕はプロではないので、実際に締結するときにはケチらずに弁護士・税理士に相談することをオススメする)
ということで、これまで書いたブログの中で、該当する人がもっとも少ないとてつもなくニッチなブログを書いてしまった(笑)
でも、該当する人にとっては、本当に大事なことだと思うので、そういう人に少しでも早く届いたらいいなーと書いてみた。(もっともっとこういう話は啓蒙すべきだと思う!)
大事な話だと思っていても、結んでいない人は多い。
結んでいる人でも、内容を十分検討していない人も多い。
(僕も、十分な検討はできていないかもしれない)
みなさんのまわりに、これから起業をしようとしていたり、起業して間もない人がいれば、(ちょっとおせっかいかもしれないけれど)ぜひこのエントリーを紹介してくれたら幸い。
(終わり)
取締役みたいな「立場」は、辞めるだけで解消できる。
でも、株式に関することは後戻りは非常に難しい。
そんなときのための、買取の発動条件や、取得価格などをあらかじめ定めた、創業株主間契約書。
ゼロを割ってもゼロだけど、ゼロでなくなった瞬間に、人はごく自然に欲を持ち始めるのだよ。。。
投資家は創業株主間契約を結ぶように指導してあげて欲しい
ただ、株式の性質について全ての起業家が必ずしも理解しているわけではない。
時間的・気分的な余裕がないこともあるだろう。
意外かもしれないが、過去の仕事からそういった資本政策が後戻りが効かないものだと十分に認識している人でさえ、創業株主間契約を結んでいることは少ない。
「なんとなく気にはなっていたんだけど・・・」と、後から言う。
きっとプロであっても、やりにくいことなんだろう。
であるからこそ、株価に出資簿価以上の価値が初めてつく最初の増資の段階で、ぜひ投資家側から創業株主間契約を結んでいることを条件に出資するなどの対処をしてあげてほしいと思う。
自分たちでやりにくいことを、他社事例に精通している投資家が指導してあげることが、投資家としての1つの価値なのではなかろうか。
出資した後に創業者間で揉めることになって困るのは投資家も同じはず。
将来のリスクを減らし、創業チームにビジネスに集中してもらうためにも、ぜひ指導してあげて欲しい。
(特にシードアクセラレーター等の初期の機関投資家は、ぜひ!)
結ぶならこんな内容がオススメ!
さて、まさにこれから会社を設立するので創業株主間契約を結びたいと考えたとしても、どういう条文がいいのかさっぱりわからないという人は多いかもしれない。
そんな時は、ベンチャー向けの各種の契約書ひな形を提供しているAZX総合法律事務所のサイトに訪れるのがまずは第一歩!
AZX総合法律事務所 書式/雛形集
こちらの創業株主間契約書の雛形を使えば最低限の内容はおさえておくことができる。
ただ、こちらは本当にシンプルな内容なので、会社にとって事情は様々あれど、もう少し契約内容を充実させてもよいかなと個人的には思う。
(そのためにもAZXに相談したらいいという話だと思う(笑))
細かい検討ポイントは色々あれど、AZXの雛形に関する大きな論点は以下の点ではなかろうか。
- 「(社長以外の)共同創業株主」が辞めた時に「創業社長(あるいは創業社長が指定する第三者)」が買い取ることを前提とした構成になっている。つまり、社長が辞めることになった場合には対応していない(実際そういうケースもあるわけで・・・)。
- 辞める創業株主から買い取る株価は、辞めた時点での株式時価がいくらであろうと、出資時の簿価で買い取ることになっている。
- それまで何年勤めようと、上場あるいは創業社長による株式売却(≒EXIT)するより前に辞めたら、持っている全ての株式が買い取り対象となる。
まあ、契約書としてはこんなもんじゃないかなと思う人はこのままでもいいかもしれないけれど、えー、そうなの?と思う人は、上記の3点について以下の様な変更を検討してみてもよいかも。
1. 創業社長が共同創業株主から買い取る契約ではなく、社長も含めた共同創業株主全員が辞めた時にお互いで買い取れる契約にしてしまう。
例えば、出だしは、「本契約の当事者である創業株主A、BおよびCは、それぞれが保有する株式会社XYZの株式に関し以下のとおり合意した」みたいな感じで。
で、創業株主を「退任創業株主」と「在任創業株主」に定義を分けて、「退任創業株主」から「在任創業株主」が株式を買い取る、みたいな建て付けであればよいのではなかろうか。
もし創業株主の関係性が比較的フラットに近いのであれば、こういうやり方はありかなと思う。
もし創業株主の関係性が比較的フラットに近いのであれば、こういうやり方はありかなと思う。
2. 株価については「簿価で買い取る」条文のままでいいと思うけれど・・・
株価をどうするかは難しいところ。。。
選択肢としては、1)出資簿価、2)直近の取引時価、3)時価純資産、あたりか。
「第三者の鑑定による」とかにしても上記のどれかを参考にするのだろうしね。
(まあ、「4)DCF」で、みたいな話もありうるけれど・・・実務的にはちょっと、ねぇ・・・)
VCのValuationは必ずしもその時点ですぐに売却できる時価とは限らないし、株価を「直近の取引時価」にすると、そもそも用意する資金が大きくなりすぎて残る在任創業株主が買い取れないってことになっちゃいそうで。
そもそもの契約の主旨が「株式を買い取られるのが嫌だからお互い辞めないように頑張る」「でも辞めることになったら会社としては確実に株式を買い取っておきたい」みたいなところなので、株価は「出資簿価」にしておくのがよいかなと個人的には思っている。
その場合、その時の時価よりも安く売ることになるかもしれず、ちょっと税務リスクは出てしまうけれど、まあ仕方ないかな、と。
個人間の取引を前提とすると、売る側(退任創業株主)には課税は行われず、買い取る側(在任創業株主)に贈与税がかかってしまうリスクがある。
贈与税は累進税率なので、時価が小さければいいけれど、大きくなっていると買いとるのが難しいケースが出てくる(支払う税金が大きくなりすぎる)かもしれないので、このあたりはあらかじめ理解だけはしておきたい。
(そのため、在任創業株主だけでなく、指定する第三者が買い取れるとしたり、株価をお互い合意の上で下げる余地を残しておいたりするのもよいかも)
贈与税は累進税率なので、時価が小さければいいけれど、大きくなっていると買いとるのが難しいケースが出てくる(支払う税金が大きくなりすぎる)かもしれないので、このあたりはあらかじめ理解だけはしておきたい。
(そのため、在任創業株主だけでなく、指定する第三者が買い取れるとしたり、株価をお互い合意の上で下げる余地を残しておいたりするのもよいかも)
リバースべスティングとは、途中で辞めた時に、持っている株式を買い取られる率が年々減っていくという仕組み。
例えば、1年勤めたら持っているうちの○%は辞めてもそのまま持っていてよい株式として確定し、2年勤めたらさらに○%が確定し・・・みたいな感じの契約。
見慣れないかもしれないけれど、実際に契約書に書くとしたら、以下のような感じだろうか。
本契約当事者のいずれかが発行会社の役員および従業員のいずれの地位も喪失した場合(以下「退任等」という)には、その喪失の理由を問わず、退任創業株主は他の創業株主の請求に基づき、本件株式の数から当該時点に応じた以下の比率分を控除した数を上限として、在任創業株主が指定する数の本件株式のうち、在任創業株主またはその指定する第三者に譲渡する。
(1)本覚書締結日より○カ月以内に退任等をした場合:本件株式の0%
(2)本覚書締結日より○カ月以降○カ月以内に退任等をした場合:本件株式の○%
(3)本覚書締結日より○カ月以降に退任等をした場合:本件株式の100%
僕が創業した時は、2年くらいで100%確定させるのがよいかなと思っていたけれど、自分でやってみたら会社作ってからの2年はあっという間だったので、3-4年かけて確定させていくとしても良さそうな気はする。(上記では期間を3つしか定めてないけど、実際はもっと細かくわけて、順次確定していく契約としたらいいと思う)
4. その他に検討する条項
上記の3つ以外に追記を検討することがあるとしたら、退任創業株主が持っている株を、在任創業株主がEXITした時に一緒に売却できるとする規定かな。
例えば事業会社がベンチャーを買収するときに、できればそのベンチャーを100%子会社にしたいけれど、株式の10%を辞めた創業株主が持っていて、その10%を買いたくても買い取れない、みたいなことを避けるための条項。
書き方のイメージとしてはこんな感じ。
退任創業株主が保有する本件株式(以下、「退任後保有株式」という)の譲渡について、以下の通り定める。
1.在任創業株主が保有する本件株式の全てを第三者(以下「売却先」という。)に譲渡する場合には、退任創業株主は、当該売却先への譲渡の条件と同等の条件で、退任後保有株式を売却先に譲渡するよう在任創業株主に請求できるものとし、在任創業株主は、退任創業株主が当該譲渡を行えるよう、株主総会等の開催、売却先との交渉等において最大限の努力をするものとする。
2.在任創業株主が保有する本件株式の全てを第三者に譲渡する場合には、在任創業株主は、当該売却先への譲渡の条件と同等の条件で、退任後保有株式の全てを売却先に譲渡するよう退任創業株主に請求できるものとし、退任創業株主は発行会社の取締役会に対する譲渡承認請求等、退任後保有株式の有効な譲渡に必要なあらゆる手続を行うものとする
EXIT時に、辞めた人は残っている人に「自分の持ち分も一緒に売ってよ」とお願いできて、逆に残っている人は辞めた人に対して「お前の持ち分も一緒に売るよ」と請求できる、みたいな条項。
他に追加を検討する条項は、円満に辞めた時以外にどういう条件で買い取りを発動するかみたいな条項だろうか。「反社会的勢力との付き合いがあったら」、とか、それ以外にも、もしあれば。
(繰り返すけど、大事な話だし、僕はプロではないので、実際に締結するときにはケチらずに弁護士・税理士に相談することをオススメする)
最後に
ということで、これまで書いたブログの中で、該当する人がもっとも少ないとてつもなくニッチなブログを書いてしまった(笑)
でも、該当する人にとっては、本当に大事なことだと思うので、そういう人に少しでも早く届いたらいいなーと書いてみた。(もっともっとこういう話は啓蒙すべきだと思う!)
大事な話だと思っていても、結んでいない人は多い。
結んでいる人でも、内容を十分検討していない人も多い。
(僕も、十分な検討はできていないかもしれない)
みなさんのまわりに、これから起業をしようとしていたり、起業して間もない人がいれば、(ちょっとおせっかいかもしれないけれど)ぜひこのエントリーを紹介してくれたら幸い。
(終わり)
★一緒に知識・スキルの販売サイト「ココナラ」を育ててくれるメンバーを募集しています!