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2012年5月21日月曜日

あなたは子どもや部下を「変えたい」ですか?(サッカーU-16日本代表監督吉武 さん講演雑感)

1週間前にサッカーU-16日本代表監督の吉武さんの話を聞く機会に恵まれた。子供のサッカースクールの父母会主催の勉強会だが、前回の大儀見さんの講演に続いて本当に学びが多い会だった。

笑いが絶えない楽しい講演で、偉人の名言や吉武さんの人生を網羅した感動エピソードまで満載だった。講演録として書くと膨大になりそうなので、一週間たったところでまだ印象に残っていることを中心に紹介してみようと思う。

出典はこちら

ちなみに、吉武さんと言えば、2009年にU-15日本代表監督に就任、2010年のU-16選手権でアジアでベスト4入りしFIFA U-17ワールドカップの出場権を獲得。同大会では最後にブラジル相手に2−3の死闘を演じて、世界でベスト8の成績を残した監督だ。

キャリアは異色で、元々は中学校の数学教師。更に言えば、不登校対応教員やプラハでの日本人学校、盲学校での教員経験もお持ちで、雰囲気は優しくて熱い「理想の教育者」といった風。

「選手の調子の変化や心理状態など細かいところまで見られる」「あれほどチームに一体感をもたせられる監督はいない」という評価の声は、その教育者としてのキャリアによるところが多いのかもしれない。

講演のタイトルは「ファイナリストをめざして」というもので、小学生のサッカースクールでの講演なので子供の教育についてが中心テーマだったが、子育てとマネジメントの類似点にフォーカスしている僕としては、ビジネス視点も多少織り交ぜて講演内容をまとめ直してみようと思う。(ということで、僕の主観的な解釈も入っている点、ご了解ください)。


自立・自律させることがゴール


吉武さんの講演では終始一貫して「努力し続けること」の大切さについて説いていたが、それは嫌なことでもとにかく頑張るという軍隊的な感覚とは真反対の、努力を努力とは思わずに頑張り続けられる人を育てようという話であったと思う。

サッカーに限らず様々な一流アスリートの映像を通じて紹介していただいたのは、成功している人はみな努力を続ける才能に恵まれているということ。なぜそれができるかというと、彼らはみな人間として自立・自律しているからだ。

それをもう少し細かい要素にわけてみると、自立・自律をもたらす要素とは、

  • 自己決定力があること
  • 自分で考える力があること
  • 向上心を持っていること
  • 好奇心があること
  • 思いやりがあること
  • 心遣いができること
  • 明るいこと
  • プラス思考であること
だという。

こういう要素を持っている人は、どんな困難も受け止められるし、相手の変化にも適応できる。相手を圧倒するだけの落ち着きや風格を持つ。

自立・自律している人は、いつも誇りと楽しさを持って生きられる。ここでいう誇りとは「言い訳しないこと」。わかりませんと言える潔さと、目標のために◯◯をしたと「実行」を語ることができる。

チームの中にいては、一人ひとりはできることをできる範囲でやりながら、全体としては共鳴しながらチームの目標に向かうことができる。

そういえば、吉武さんがサッカーの代表メンバーを選ぶ時には、ものすごく「笑顔」を重要視するらしいが、自立・自律している人はそれとわかる「笑顔」をもっているのかもしれない。

なるほど、みな自分の部下や子供、教え子がこんな人になってくれるものならなって欲しいだろう。

でも、どうしたら自ら努力し続けられる人、自立・自律している人を育てられるのだろうか?


変えられること・できることにフォーカスする


吉武さんの問いかけはこうだ。

時の流れの中で、変わらないもの、変わるものがある。そして、変えなければならないもの、変えてはいけないものがある。
あなたは、変わらないものを変えようとしていないか?変えてはいけないものを変えようとしていないか?
生まれた時間や場所、生まれ持った性格や心模様は変わらない。でも、費やす時間や合理性は変わる。

方法や考え方は変えなければならない。でも、信念・哲学は変えてはいけない。結局、環境など変えられないことに文句を言ったって仕方ないし、そこにエネルギーを注いでも何も事態は好転しない。だから、夢やビジョンは変えることなく、変えられること、変えるべきことだけにフォーカスすることが重要なのだ。

そして重要なのは、変えられることにフォーカスするということは、できる・できないこととは関係ないということだ。変えられることにフォーカスすること、言い換えれば自立・自律しているということは、プロセスであり、メンタリティーである。結果ではないし、優劣でもない。

結果や優劣を忘れて持っているものを出しきること、授かっているものを活かしきること。これをできるようにしてあげることが大切であり、それが自立・自律した人に育てていく上でのポイントなのだ。

吉武さん曰く、子供がまだ10歳以下ならおもいっきりアクセルを踏ませることが大事。10歳以下の子でやりたいことがない子なんてまずいないから、何をやらせたらいいかを親が過度に気にかける必要はない。

そしてもう1つ、子供に自分の言葉で語らせること。親が語って欲しいことを語らせてはいけない。内容が違うと思っても、抑えつけてはいけない。

仮に意見が対立したとしても、対立は意欲であり、情熱であり、力である。何も言わないことが問題なのであって、何かよくしようと子供が言うことは全て正しいと受け止めてあげることが大切だ。

僕も含め、人は多かれ少なかれ「何も言わない良い子」を作ろうとしてしまう時がある。これでは自立・自律した子供を育てることからは遠ざかってしまうのだ。

このあたりは子供を「部下」と読み替えても通じる話だろう。

ある部分において、オトナを超えている子供がいることを忘れてはならない。頭は子供に使わせなければならないのだ。


結局変わらなければいけないのは親であり指導者


上記のように多少僕の主観も交えて書いてみると、結局吉武さんの言いたかったのは、子供を変えたいのならまず親が変われ、ということだったのではないか。

「よっしゃー、夢を実現するにはやっぱ努力と覚悟が大切だー、子供に言って聞かせるぞー!!!」では、吉武さんのメッセージは3割も伝わっていないのではないかと勝手に思っている。

吉武さんが講演の冒頭に「過去と他人は変えることは出来ない。でも未来と自分は変えることができる」と仰っていたのは、暗に「子供を変えたいならまず親が変われ」と言いたかったのではないだろうか。

子供を変えようとするのではなく、子供が自発的に変わるように、まず親が変わる。
子は親の鏡だ

あの場にいた方はみな吉武さんの魅力に虜になったのではないかと思う。こういう素敵な大人なら、生徒なり、部下なり、若いサッカー選手なりの強みを引き出して育てるのはさぞ上手いのだろう、と。

であれば、吉武さんがいつも心がけていることを、親として、上司として、ひとつひとつ自分のものにしていくしかないんじゃないか。
  • いつでもどこでも楽しくプラス思考でいられるか。 
  • 努力に優る天才なしと胸を張れるか。
  • 精神的持久力の大切さ、人の優しさの素晴らしさを説けるか。 
  • バカ心・逆境心を持ち続けられるか。 
  • 常識は必ずしも良識ならずを実践しているか。 
  • 子供や恩師など周りの人から学ぶ素直な姿勢を持っているか。 
  • そして、これらを背中で語ることができているか・・・。
「やってもできないことがある。それもかなりあることを胸にしつつ、やってもできない悲しみを超えて、やってやってやまない人にしたいと思う」と、盲学校での経験を元に仰っていたのが印象的な、吉武さんの講演だった。

ふぅ・・・僕はまだまだだ。
お互いがんばりましょう。


(・・・最後に、吉武さんの仰っていた話は僕が以前こちらのエントリーで書いた「子供の強みの伸ばし方」に通じるものがあると思うので、よかったらあわせてお読み頂ければ幸いです)

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