「『やる気を出せ』『集中しろ』と言うけれど、あなたがやる気を出せと言われたら、まず何をしますか?『玉子焼きを焼いて』と言われた時と同じように、やるべきステップが頭に思い浮かびますか?あなたがそれを説明できないなら、お子さんに『やる気を出せ』『集中しろ』なんて簡単に言っちゃだめですよ」たまたま息子のサッカースクールで外部講師を招いてのセミナーがあると聞き、なんとなく顔を出してみたのだが、望外に面白かったので記憶があるうちにメモしてみる。
講師は、メンタルトレーニングコーチの大儀見浩介氏。元サッカー選手で、中学時代にはJリーガーの高原直泰と一緒に全国制覇も経験したこともあるという本格派。現在は「なでしこジャパン」のFW永里優季さんの旦那さんとしても知られている(らしい)。
出典: http://www.riopedra.jp/about/about4.html
プロスポーツ選手のメンタルトレーニングをされているということだが、話を聞けば聞くほど、メンタルトレーニングというのはスポーツに限らずビジネスの面でもそのまま通用する話だなーと素直に思った。
総じて言うと、「自己効力感」を持つためのメソッド、という話だったように思う。自己効力感とは、「外界の事柄に対し自分が何らかの働きかけをすることが可能であるという感覚」ということ。
よく似た用語の「自尊心」と比べると、自尊心はその本人自身の価値に関する感覚であるのに対し、自己効力感は自分にある目標に到達するための能力があるという感覚だそうだ。
スポーツもビジネスも、「これならやれそうだ」と自分を律して前向きに頑張り続けることが成果を生むのだと思う。じゃあ、どうやったらそういう状況を作れるのか。
大儀見氏によると、メンタルトレーニングで大事なのは8つの心理的スキルだそうだ。
これらについて聞いた話を思い出せる範囲で書いておく。
- 目標設定(やる気を出す)
- リラクゼーション・サイキングアップ(セルフコントロール能力を高める)
- イメージトレーニング(新しい技術を身につける、試合で実力を発揮する)
- 集中力(いつでも集中できる方法を身につける)
- プラス思考(強気、前向き、積極的に考える)
- セルフトーク(気持ちを切り替える)
- 試合に対する心理的準備(試合に勝つための徹底した心の準備)
- コミュニケーション(人間関係、チームワーク向上)
1. 目標設定
まずは、目標をしっかりイメージして、目標と現実とのギャップを認識すること。その上で、「このままじゃヤバイ」という感覚を自分自身が持つこと。
設定する目標は高いほうがやる気が出るのだが、もちろん高すぎてもいけない。実証研究によれば、110%の達成度を目標にセットした時に、人はもっとも成果が出るらしい。
大儀見さんがコーチをしている学校でも、テストの点を「とにかく100点を目指す」という手法から「前回のテストの110%増し(60点だったら66点)を目指す」という設定が最も効果が出たそうだ。「それ以上取る必要がない」とちゃんと言ってあげること。
そうすると「自己効力感」、つまり「これならやれそうだ」という気持ちになり、気持よく頑張れるらしい。
適切なレベルの目標を持つためには、長期目標を描いた後に、それを実現するための中期・短期目標をきっちり定め、「これならやれそうだ」というレベルの実感を持たせられるかどうか。
目標設定の細かい注意点をあげるとすると、
- プラス思考で書く(「より良くなりたい」と書く)
- 具体的な数字を入れる
- 達成期限を決める
- 日誌などで進行状況をチェックする
- イメージしやすく記入する
- 1回で終わらず何回も目標をみなおす
- 見えるところに貼る
- 「〜しない」「〜ならない」と書かず「〜する」「〜やる」など言い切りで表現する
とくに最後のひとつは面白くって、できるスポーツ選手はよいイメージしか頭に浮かべないそうだ。「失敗してはいけない」と考えれば考えるほど萎縮して失敗してしまうらしい。「猿のことを考えるなよ!」と言われたらついつい頭の中に猿のことを思い浮かべてしまうのと本質的には一緒だ、と。
2.リラクゼーション・サイキングアップ
波があるのはメンタルが弱い証拠。できるスポーツ選手は、いわゆるフローとかゾーンの状態に「意識的に」入ることができるらしい。
セミナーではどうやったらリラックスできるか、そこからどうやってサイキングアップするかという細かいメソッドの話は聞けなかったが、(あとで述べる)イメージトレーニングをリラックスしている時にやるほど成功確率があがるという話は面白かった。
一日の中で言えば、寝起きだとか、お風呂上りだとか、心も身体もリラックスしている時にイメージトレーニングをやるとよいらしい。
仕事で言えば、お風呂上りに翌日の仕事のイメージをして、朝起きた時にそれに従って一日のプランを考える、というルーティーンをしたら仕事もうまくいきやすいということか。うん、そんな気もするな・・・。
以前、知人に誘われてお寺で座禅を組んだことがあるのだが、その時に住職に言われたのが、「高くジャンプするためには深く屈み込むように、集中して仕事をする前には意識的に頭を真っ白にすることが有効。だから自らを律して頭を真っ白にする座禅のスキルは集中力を生むんだよ」、と。
意識的にリラックスするということが、セルフコントロール能力のキモなのだ。
3.イメージトレーニング
イメージトレーニングには、外的イメージ(外から、あるいは上から自分を見る)、内的イメージ(自分の視線で見る)の二種類があるらしい。
例えば、「スキーをやっているところをイメージして」と言われると、人はだいたいどちらかを想像する。今日試した時は、僕は自分の目線で想像した。ところが、一流のスポーツ選手は自然と両方やるそうだ。
人間の脳は、実際に身体を動かすときも、それを頭の中だけで想像しているだけの時も、筋肉を動かす命令を出す脳の部分以外は、すべて同じ働きをしているらしいのだ。怖い夢などを見ていて夜中に突然目が覚めるのもそういうことらしい。
実際の成功に近づけるイメージトレーニングとは、筋肉を動かす部分以外の脳をすべて刺激すること、つまりは五感を総動員して想像することがよいのだ。
例えば、好きな食べ物をイメージする時は五感を最も使いやすく、だから想像するだけでお腹がなったりする。それと同じように、ある事の成功イメージを持ちたい時は、それをやっている時はどういう触感、どういう匂い、どういう音・・・などと、五感をすべて使って想像した方がうまくいくのだ。
4.集中力
転びそうになった時、まるで動きがスローモーションのように感じるのは、その瞬間にものすごく集中力が高まっているから。集中した時に力を発揮するというのは本来的には誰でも持っている能力で、要は、1点のみに自発的に集中できるかどうかが集中力の強さを決める。
言い換えると、いかに集中するのを邪魔する要素を排除するか。
(twitterやfacebookを視界から除くか、とも言える?(笑))
また、人間の集中力はずっと続かないので、自分のタイミングで高め、また、意識的に集中力を切ることも重要。これを相手・外部のリズムではなく、自分のリズムでやること。
スポーツ選手は集中するスイッチ、いわゆる「パフォーマンスルーティーン」を持って集中力をコントロールすることが多い。
イチローはいつもベンチから出て打席に入るまでまったく同じ動きをしているが、実は練習の時もまったく同じ動きをしているらしい。いつも同じルーティンを繰り返し、この行動をとったら集中のスイッチを入れる、という習慣付けをすることが効果的。
逆に、大事な試合の日に緊張していつもと違うことをやってしまうと、それが試合前の単なる日常のワンシーンだとしても、その後の試合での失敗確率が上がるという研究結果もある。
自分自身の決まったリズムを作ることが生産性を上げる上で大切なんだろう。
5.プラス思考
行動を起こす前に思考がないと動けない。そしてその思考は常にポジティブであることが成功確率を高める。
人には短所はあるものだが、例えば「せっかち」を「頭の回転が速い」と言い換えるように、短所を言い換えて長所にするというポジティブリフレーミングの習慣付けが大事だ。
また、どんな姿勢や表情をするかでも思考は簡単に変わってしまう。下を向いて、ため息をついて、ネガティブな発言をしていれば、そうではなくても気分がネガティブになるものだ。
これは僕も試したことがあるのだが、上を向いているだけで気持ちが前向きになったりするものだから、人の感情というのはおもしろい。
よい姿勢で、ポジティブリフレーミング!
6.セルフトーク
これはプラス思考と類似の話だが、自分が自分にどのような言葉をかけていくかがメンタルに大きな影響を与える。特に、気持ちを切り替える能力を得るために、セルフトークは大きな意味を持つ。
人間の心は言葉によって変化する。また、人に文句を言うのも同様に自分に返ってくる。他人に無駄に怒っていたら、怒られたほうも怒った方も、どちらも生産性が落ちてしまうのだ。
認める、褒める、肯定する、賛成する。もし間違ってネガティブな言葉を言ったら、最後に「なんちゃって」と言えばいい(笑)それだけでもずいぶんと前向きになれるものだ。
ただ、プラス思考にも、目的があるプラス思考と目的のないプラス思考がある。特に目的もないまま、「ま、いいや」と諦めるのではよくない。セルフトークによる気持ちの切り替えが機能するのは、あくまでも目標があるとき。
7.試合に対する心理的準備
これは、一言。「自信は準備で決まる」。
(うん、セミナーの時間がせまっていたからか、ここは話が短かったのだ(笑))
8.コミュニケーション
コミュニケーションは言葉だけではない。関係がダメになっていくのはノンバーバルコミュニケーションの方が原因になることが多いそうだ。
話の途中でもよくでていたのは、「結果については褒めても怒ってもいけない。褒めるのは、『ポジティブな努力に対して』のみである」という話で、これは前のエントリーでも書いたけれど、本当にそう思う。
あとは、鶴の恩返しや浦島太郎のごとく、「◯◯しちゃダメ」と言われるとついついやってしまうことがあるのが人間。これは、「よくなりたい」という気持ちに対して「◯◯しちゃダメ」というのは、自己効力感を失う効果があるからだそうだ。
質疑応答での話だったが、大儀見さんによる一流選手の定義は何かというと、「どうやったら一流選手になれるのかを考え続けている人」だそうだ。まわりが、一流にするために「◯◯しろ」「◯◯しちゃダメ」などと言っていれば、本人がせっかく持っている自己効力感も失わせてしまうリスクがある。
「なぜそう思う?」「どうしたらできる?」と、探究心を刺激してあげることが、子育てでもマネジメントでも、能力を伸ばすことにつながるということなのだろう。
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