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2011年8月27日土曜日

紹介:「ご機嫌な職場」酒井穰(東洋経済新報社)

前著に続けて、またまた判断が割れる書籍だなぁというのが第一印象のご機嫌な職場。中身の善し悪しについて判断が割れるという意味ではなく、「体感」している人には当たり前に納得できるし、「体感」していない人にとっては、読むことで頭ではわかっても本書のキモの部分が理解出来ないのではないかという意味で。

著者の酒井穰さんとは個人的にかなり親しくさせていただいており、本書も献本いただいたのでご紹介させて頂きます。(感謝!)
(と言っても、思ってもない良いことばかり述べても仕方ないので、感じたままに書きますが)



本書の問題意識は、「職場コミュニティーの弱体化が急速に進んでいること、そして実はこれは経営上の最重要課題の一つになりつつあること」。

会社や年令によって感じ方に違いはあれど、多かれ少なかれ職場コミュニティーが弱体化しているという点についてはうなづく人は多いのではないだろうか。

ただ、「なぜ弱体化が進んでいるか」を理解している人はあまりいないのではないかと思う。

本書の第一章ではその理由を明らかにしているが、ここで冒頭の「体感」した人とそうでない人の違いが出てくるのかな、と感じる。あえて世代間に分けて言えば、職場コミュニティーが弱体化したなぁと嘆いている年配層と、最初から職場に期待することなく職場の外に自己実現の場としてのコミュニティーを構築することを「体感」してしまっている若年層の差というべきものか。

(古くから「最近の若者は」と言われ続けてきているのだろうが、一方で、インターネットの発達等により本人の意識次第では世代間や職業間の「感覚」の差は飛び越えやすくなっているので、必ずしも年代にリンクするわけではないとは思う。)

そしてその「感覚」「体感」の違いが、本書で叫ばれている職場コミュニティーの弱体化がいかに問題かという意識の強弱につながり、第三章で提案されている各種の「職場コミュニティーの再生法」に対する「ありがたみ」の評価の違いになる。

本書は誰が読むべきかという点については、本書中で紹介されている東大の中原先生の職場学習論―仕事の学びを科学するからの指摘がその答えになるかもしれない。
職場における「精神支援」の多くは、同僚・同期から与えられるもので、上司からの「精神支援」は相対的に少ないことがわかります。上司の仕事は「業務支援」による部下育成にある、と考える人は多いでしょうから、この結果はそれほど驚くべきものではありません。
ところが、上司からの支援で最も多い「業務支援」は、部下の成長には結びついていないだけでなく、上司があまり行っていない「精神支援」が、部下の能力向上に影響していることが、中原先生の研究により明らかにされました。
上司の影響力というのは、プラス面にもマイナス面にも大きいものだとは思うが、その内容や方向性が違っているのはもったいない。職場コミュニティーを作るのは、上司の仕事なのである。業務を教える以上の。

先日、本書の内容のエッセンスを紹介する酒井さんの講演(クオンタムリープ社主催)に参加させていただく機会があった。僕よりも年配の方が、「初めて聞く価値ある話ばかりで驚きと共に大いに参考になった」と仰っていたので、せっかくの機会だし、その場の参加者に刺激を与えるのも僕の仕事だと、「酒井さんの話はどれもこれも実践しているものばかりで何の目新しさもない」と若者代表的なコメントをして、会場を凍りつかせてみた(笑)

目新しさがないは冗談にしても、おそらく、体感している人とそうでない人の差は、相当あるという確信に近い印象は持っている。

本書で述べられている問題は本質的なものだと強く実感している。ぜひ手にとって読んでもらいたい。第一章だけでも本屋で立ち読みすれば、第三章の実践プランは手元に持っておきたいと思うことだろう。酒井さんが経験済みの、ものすごく実践的な提案が惜しみなく掲載されている点が本著の最大の価値なので。

加えて、若い人は、前著のリーダーシップでいちばん大切なことと併せて読み、会社の中と外で何が起こっているかを理解し、来るべき未来にいかなるキャリアを築いていくかの参考にしたらよいと思う。

部下を持つ立場の方は、同じく前著で「最近の若者」を理解しつつ本書を併せて読むと良いはず。更に、高橋俊介氏の「人が育つ会社をつくる」(日本経済新聞社)を併せて読めば、なぜ組織で人が育ちにくくなったかの理解が深まり、一層よいと思う。

(特に本著の参考文献には上がっていなかったが、本著は2006年出版の人が育つ会社をつくる―キャリア創造のマネジメントに、その後の2つのソーシャル(ソーシャルネットワーク、社会貢献活動)の動きを加味した続編/回答書的なものと勝手に捉えている)

前著のリーダーシップでいちばん大切なことについては、以前こちらのエントリーで紹介しているので、よかったら読んでみてください。

【書評】新しい幸福論〜「リーダーシップでいちばん大切なこと」

この本を読んで少しでも明るい職場がたくさん生まれたらよいなぁと素直に思う。

(なお、本著の34pに僕のブログのエントリーが紹介されているのはヒミツです(笑))